大判例

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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)1065号 判決 1989年5月30日

控訴人 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右指定代理人 金岡昭

<ほか三名>

被控訴人 加藤録郎

<ほか一〇名>

右被控訴人ら一一名訴訟代理人弁護士 大室俊三

同 古瀬駿介

同 内田雅敏

同 大谷恭子

主文

一  原判決主文第一、第二項中、被控訴人加藤録郎、同トシ子及び被控訴人角田源一に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人加藤録郎、同トシ子に対し各金三二〇九万〇三八九円、被控訴人角田源一に対し金五九一八万〇七七八円及び右各金員に対する昭和五二年三月三一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  右被控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  控訴人のその余の被控訴人らに対する本件控訴を棄却する。

三  被控訴人加藤録郎、同トシ子及び被控訴人角田源一との間において、訴訟費用は第一、第二審とも控訴人の負担とし、その余の被控訴人らとの間においては、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実摘示中「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正等)

原判決七枚目表七行目「伊那北」の次に「駅」を、同八枚目裏六行目「高専」の次に「の当局」を、同九枚目表三行目「という。)は」の次に「、滑落や雪崩に遭遇する危険がなく」をそれぞれ加え、同一二枚目裏七行目「荒れると」を「天候が悪化すると」に改め、同一三枚目表一行目「山小屋は」の次に「この時期」を加え、同一五枚目裏末行「山腹」を削り、同行目「ルートで」の次に「、すなわち森林限界沿いに山腹をトラバースして」を、同一七枚目表四行目「傾斜があり、」の次に「木曽側から吹く強風の風下にあたっており、」を、同五、六行目「未明からの」の次に「木曽側から吹き下ろした」をそれぞれ加え、同六、七行目「できやすいものであった。」を「できていた。」に、同一七枚目裏一行目「膝下までの」を「、森林限界沿いを歩くと膝下までもぐる程度の、すなわち」に、同一八枚目表四行目「ものであった。」を「ルートを選択したことになる。」にそれぞれ改め、同裏六行目「遭難の危険」の次に「を冒し、山腹をトラバースして下山する」を、同一九枚目裏二行目「具合によって、」の次に「数日位」を、同三行目「であり、」の次に「控訴人の主張するような視点は、」をそれぞれ加え、同八行目冒頭「なく」を「ず、特に初心者らの」に、同二二枚目表四行目「本件山腹」から同八行目「たこと、」までを「本件ルート、すなわち、森林限界沿いに山腹をトラバースしての下山は、前記山の鉄則、雪山登山の原則に明らかに反すること、そればかりでなく、本件ルートにあたる山腹の傾斜、積雪、森林と沢との位置関係等の具体的状況を考えると、本件ルートによる下山は、雪崩に遭遇する危険性が非常に高いものであったこと、」にそれぞれ改め、同二三枚目表六行目「クラスト」の前に「前述したとおり、」を加え、同七、八行目「ことは前述したとおりである。」を「のである。」に改め、同二四枚目表七行目「山腹」を削り、同二五枚目表七行目「就職しており」の次に「、」を加える。

(当審における当事者双方の主張)

一  控訴人

1 本件事故現場付近の積雪状況について

(一) 本件事故当日千畳敷山荘で観測した積雪量は五センチメートルであり、これは参考とすることができる唯一の客観的な証拠である。右山荘の位置(本件事故現場との関係で)、観測の方法、雪山情報として従前どのように利用されていたか等に触れることなく、その証拠価値を否定するのは相当でない。

(二) 本件事故当日の積雪量が少ないことは、小泉が当初から一貫して述べているところであって、本件事故直後の警察の検証の結果もこれを裏付けている。小泉は、新雪はせいぜい五、六センチメートル程度であり、その下に固い部分(一応クラストしていたが、三ツ岩付近のように氷状ではない。)があり、それを踏み抜くと膝下一〇センチメートル位のところで止まったと述べる。小泉としては、表面が数センチメートルの新雪の下に、固い部分があったが、そのことが本件事故とどのように関わるのか思い至らなかったのであるから、後になってからそのことを述べたとしても、不自然ではない。

(三) 生存者の一人嶋ノ内も、足元の厚さ一〇センチメートル程度の雪が板状となって三〇から四〇センチメートルずれ、その直後に腰を押された感じで頭から流されたと述べ、大量に吹き溜まっていた乾いた新雪が崩れたのとは異なる状況であったことを裏付けているのである。むしろ、小規模ながら、いわゆる板状雪崩が発生し、その衝撃が、次々と深部の弱層にまで伝播し、大規模な本件雪崩となったものと推測するのが合理的である。そして、当時としては、積雪の弱い層の破断による板状雪崩についての知識は専門家の間においてすら知られておらず、小泉がそのことに考え及ばなかったとしても、過失があるとはいえない。

(四) 三ツ岩付近の積雪はクラストしていて、氷状となっていたものであり、本件パーティーがその下を通過して僅か二、三〇メートル程度進んだところで、本件雪崩に遭遇しているのであるが、その程度の範囲で急に雪質や積雪状況が変化するとは通常は考えられない。仮に本件事故現場付近がいわゆるシロデと呼ばれる新雪の吹き溜まり区域で、それが三ツ岩付近まで広がっていたとしても、かかる事実を、偵察までして現地を確認し、慎重に行動していた平均的アマチュア登山者である小泉に認識するように求めるのは酷であり、当時の本件事故現場付近の積雪状況を前提とする限り、小泉に過失があったと認定することはできないというべきである。

2 小泉の過失について

(一) 本件パーティーの構成員である生徒らは、一六才から一九才までの年齢層であって、小中学生とは異なり、体力、判断力、統率力等において、はるかに優れている。そして、課外のクラブ活動は自主性を尊重すべきものであり、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見できる場合は別として、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立会い、監視指導すべき義務まで負うものではない(最高裁判所第二小法廷昭和五八年二月一八日判決・判例時報一〇七四号五二頁)。

(二) 国家賠償法一条一項の過失とは、通常人のそれを標準としており、クラブ活動の場合でも、顧問の教諭としては、その実施に伴って、通常予想しうる危険に備えて指導監督をすれば、必要かつ十分というべきである。実際にも小泉は、本件ルートの偵察を事前に実施し、積雪の状態、雪崩、滑落の危険等を調査したうえで、すくなくとも三ツ岩までの下山ルートは右の各危険は少ないと判断し、それから先の未確認ルートも、偵察ルートとほぼ同様の地形、積雪の状態であろうと考え、なお念のため、ザイルをキスリングの上部に取りつけ、危険箇所に遭遇した場合には、ザイルワークによってトラバースするなどの手段を準備して、下山を開始したのである。小泉において、およそ雪崩の危険がないと判断したものではない。前記の状況から、小泉は新雪表層雪崩の発生する危険はほとんどないと判断したのであるが、雪崩について一般的な知識を有し、相当程度雪山登山の経験もある者として、充分な注意義務を尽くした正しい判断であったというべきである。現に偵察したルートの範囲内では、本件パーティがラッセルしながら進んだにも拘わらず、表層雪崩は勿論、クラックすら発生しなかった。

(三) 本件ルートのうち、危険のあるのは、西駒山荘から胸突尾根までの直線にして約一キロメートルの行程であり、右ルートのある稜線下約一〇〇メートルの東側山腹では、強風の影響はほとんどなく、視界も冬山としてはそれほど悪くなく、生徒が疲労困憊して倒れるとか、凍死するとかの心配もなかった。したがって、西駒山荘に停滞するかどうかは、雪崩の発生する危険との対比においてのみ、判断されるべきである。

前記の積雪の状況のみならず、沢筋との関係についても、小泉は、五万分の一の地図からして、正確には判断できないものの、沢が稜線近くまで迫っている可能性も否定できず、もし危険な箇所があれば、トラバースするのに、ザイルの使用を考えていたものである。そして、稜線下約一〇〇メートルの森林限界を胸突尾根に向かって進むと、稜線が山頂から次第に下がっていることから、本件パーティーはそのまま稜線に近づき、未確認の沢筋ではさらに稜線に近づくから、ほとんど吹き溜まりのない、ラッセルを必要としないような場所を進行することが期待されたのである。

3 清水に対する国家賠償法一条一項の適用について

(一) 清水は、高専山岳部OBとして、当時二四才の社会人であり、小泉に次いでナンバー2の地位にあったもので、小泉とともに本件パーティーを引率、指導する立場にあった。もう一人の教員であった中山を加えた三人の間には、上下の関係はなく、本件パーティーの下山の決定についても、三人を中心とする合議で決められたものである。したがって、小泉と清水との間には、前者が後者に指揮命令監督するというような関係はなかった。

(二) すなわち、清水は、小泉とともに下山ルートを偵察し、また下山にさいしては常にパーティーの先頭部にあって、現に本件事故現場においても、先頭でラッセルしていたものである。そうすると、本件パーティーにおける清水の地位は、本件ルートのうち山腹をトラバースしていたときは、特に重要なものであって、しかも同人は、小泉とともに事前の偵察を行い、本件ルートの積雪、地形等につき、同一内容の情報、認識を有していたから、単なる補佐役というのではなく、同等の立場にあったものである。清水が、小泉の公権力の行使に服すべき地位にあったものとはいいがたい。

二  被控訴人ら

1 控訴人の主張1は否認または争う。

(一) 千畳敷山荘の降雪量の観測データーが正確であったとしても、本件事故現場付近、すなわち吹き溜まりの積雪量が約五〇センチメートルであったことと矛盾しない。風や地形の影響を受けやすい積雪の状況は、特に二〇〇〇メートルを越える高山においては、僅かに離れた地点であっても、いくらでも変わりうるのである。

(二) 本件事故の翌々日から二日間にわたり、警察による実況見分が行われたが、そのさい雪崩の形跡はなく、歩くと五センチメートルから二〇センチメートルくらい沈んだというのであるが、右積雪は最後の雪崩のあとに降ったものと推認される。しかも四月一日、同二日とも晴天であったというのであるから、積雪は三一日のものである。また、小泉は右見分に立会い、その指示説明として、「本件事故当時は新雪が五〇から六〇センチメートル積もってラッセルした。」と述べているのである。当時の積雪量は、本件事故直後の右供述が正確に表現している。

(三) なるほど、三ツ岩と本件パーティーが雪崩に遭遇した現場とは、それほど離れてはいないが、そもそも高山の積雪の状況は、当日に降った五〇センチメートルの雪であっても、強弱の層ができるほど自在に変化しているというのであるし、本件の雪崩に遭遇する直前の状況について、嶋ノ内は、ラッセルすると歩いた跡が「コ」の宇型になるが、その壁面に当たる部分の長さ三、四〇センチメートル、表面からの厚さ一〇センチメートル位の板状のものがずれ、腰の部分を押されたと述べており、結局新雪の上部がずれ落ちたものであって、控訴人の主張とは異なる。

(四) また、本件のような高山での吹雪の積雪は、場所が近いから変化がないということはなく、控訴人の主張は積雪についての誤解からきている。冬山の経験をある程度有している平均的登山家であれば、雪崩の危険は充分に認識できた。

2 同2の主張も否認または争う。

(一) 控訴人の引用する判例は、バレーボールの練習中の喧嘩による怪我をめぐる事案であって、危険に満ちた雪山を現に山行中のリーダーの判断が問題とされている本件の場合とは、その類型を異にする。

(二) 小泉は、パーティーの先頭に立たず、沢筋の上部と思われる箇所にさしかかろうとしても、立ち止まることもなく、ましてザイルの使用等について相談することもなく、そのまま進行したのであって、およそ雪崩の危険を感じていなかったものである。なお、本件パーティーは、トラバースを開始する直前にも、雪崩の前兆ともいうべきクラックを、二回も発見しているのである。

(三) 木曽側からの強風は、直接当たらなくとも、本件ルートに表層雪崩にとって最も危険な風成雪を形成し、それが本件雪崩を発生させたものである。また、本件ルートの近くでは、夏山であっても疲労凍死したケースがあり、まして積雪期では、常にその危険性がある。本件パーティーは、一年生で雪山ははじめての新人まで含んだものであったのに、吹雪の最中に、風下側の二〇〇〇メートルを越える稜線の直下をトラバースしようというのである。疲労困憊したり、凍死する危険性は充分にあった。

3 同3も争う。

(一) 清水は、これまでの慣習どおり、OBとして技術コーチの役割をもって、合宿に参加したものである。それは、学校長の委嘱のもとに参加したのであって、本件山行に便乗して、事実上同行したというようなものではない。本来であれば、旅費も高専側で負担すべきものであった。

(二) 本件山行は、学校教育活動の一環としてなされたものであり、本件パーティーにおいては、技術コーチといえども、すくなくとも下山か停滞かについて決断する場合には、教職員たる小泉、中山両顧問の決定に従うべき関係にあった。清水の役割はあくまでも、補佐役であって、最終責任者である小泉と同等の関係でないことは、明らかである。

第三証拠関係《省略》

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの各請求は、被控訴人加藤録郎、同トシ子及び被控訴人角田源一について、主文一項1の限度において、その余の被控訴人らの請求は原審認容の限度において、いずれも正当としてこれを認容すべきであるが、その余は失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり、付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決四八枚目裏末行「乙第八」の次に「、第九」を加え、同四九枚目裏四、五行目「把握するため」を「把握し、低気圧の通過前に安全に下山できるかどうかの判断に資するため」に改め、同五〇枚目表二行目「森林限界」の次に「(岳樺の林の上限のあたりで、雪上に岳樺が出はじめるあたりを指す。)」を、同行目「降りたが、」の次に、「下方に進むにしたがって次第に新雪が積もり、」を、同裏三行目「あれば」の次に「、風当たりも比較的弱く、雪の状態もアイゼンがかからないというようなこともなく、新雪のなかに足が沈むため、」を、同五行目「によって」の次に「、当日直ちにすなわち低気圧の通過前に」をそれぞれ加える。

2  同五一枚目裏八、九行目「固くなっていた」を「固くなり、踏み抜くと膝下一〇センチメートルまではいったが、そうでなければ一〇センチメートル程度沈んだところで止まった」に、同五二枚目表七行目「指摘である」を「指摘であり、」にそれぞれ改め、その次に「森林限界付近の新雪がその程度であれば、大きな新雪表層雪崩の発生する可能性は当然少なくなるのであって、しかも前記偵察時に小泉自身西駒山荘への帰途ラッセルし、雪質については充分に承知していたはずである」を、同九行目「実況見分時に」の次に「(本件現場の警察の実況見分は、本件事故直後の昭和五二年四月一日、二日に行われたところ、右見分調書によると、本件事故現場付近の見分時の『新雪』は、踏むと五から二〇センチメートル沈む程度と記載されているのに対し、立会人小泉は、本件事故時の現場付近は『新雪』が五〇から六〇センチメートル積もっていたとの趣旨の指示をしている。)」を、同裏八行目「これは」の次に「降雪量を指すものであって、」をそれぞれ加える。

3  同五三枚目表八行目の次に改行して以下のとおり加える。

「のみならず、右供述のように、踏み抜くところと、踏み抜かないところがあったとすると、新雪のみをラッセルするのと、その形、労力が全く違ってくるうえ、小泉、清水は、さきの偵察により、そのことを熟知していた筈であるから、仮に、積雪の状況が右小泉の供述どおりであれば、前認定の稜線直下から森林限界までのそれまでに積もっていた古い雪の状況に照らし、森林限界のやや上部に、新雪の下の古い雪がもう少し固くクラストし、踏み抜くことはなく、かつ、滑落の危険もない地帯が存在したのではないかと推認され、本件パーティとしてもラッセルなしに進めるよう、森林限界よりももう少し上部を通過したのではないかと考えられる。」

4  同五三枚目裏一行目「ことはない。」の次に「しかも、同証言によると、同人は、終始先頭部にいて、交代でラッセルしていたのであるから、新雪の状態、特にラッセルの状況について記憶違いをしたり、忘れたりするはずがないのである。」を加える。

5  同五三枚目裏六行目「認められるが、」を「認められ、右によると少なくとも当日の本件事故現場付近の降雪量が、それほど大量でなく、いわゆる『どか雪』といわれるような状況でなかったことは推認されるものの、」を、同七、八行目「よれば、」の次に「そもそも、標高二〇〇〇メートルを越える中央アルプスの、冬山ともいうべき三月三〇日のころ、天候が悪化し、激しく吹雪いている場合において、峰を隔て四キロメートルも離れたところの積雪量を、それも四、五〇センチメートルの吹き溜まりが問題となっている本件現場の積雪量の参考とすることはできないし、」をそれぞれ加える。

6  同五四枚目表九行目「シロデ」の次に「(東北地方の狩猟者マタギの言葉)」を加え、同裏六行目の次に改行して以下のとおり加える。

「控訴人は、三ツ岩付近の雪の状況が、前記のとおり積もった雪が固くクラストし、新雪がほとんどない状態であれば、そこから二、三〇メートル離れたところの積雪の状態が、右認定のように大きく変わるはずがないし、また、本件事故現場に、吹き溜まりがあったと断定できず、現場付近はシロデに該当しないなどと主張する。しかし、前掲各証拠によると、まず本件パーティーは三ツ岩の直下ではなく、三〇から五〇メートル位下方をトラバースしたものであるし、また右三ツ岩から本件事故現場までの距離は約一〇〇メートルほどはあったのではないかと推認されるうえ、右三ツ岩は、岩が雪上に突出しているため、付近は風当たりが強く、新雪の積もる量は比較的少ないことが推測されるが、二〇〇〇メートルの高山の山腹で、かつ、風雪の強いところでは、数一〇メートルも離れると、積雪の状態が異なっても不思議ではなく、しかも、本件事故現場のように、沢が終わったつめの部分は、下からの上昇気流があるため、木曽側から吹き下ろした風雪が、堆積しやすい場所であることが認められるのであり、少なくとも、それ以前に通過してきた森林限界の積雪より、本件事故現場のそれが少ないということはないものと認められる。また嶋ノ内は、雪崩発生直前の状況について、表面からの厚さ一〇センチメートル(新雪と思われる。)、幅三、四〇センチメートルの板状の雪が足元で、むしろ静かにずれるのを確認し、その後に腰のあたりを押される状況で流された、雪の崩れる音もなく、かなり上からの大量の雪が落ちてきた状況とは異なる、などと述べているのであり、当初は四、五〇センチメートル積もっていた新雪の一部がずれたのであって、面発生乾雪表層雪崩が発生したと認める方がより供述に適合していると思われるのである。」

7  同五四枚目裏末行「したところ」の次に「(雪崩の発生をもっとも誘発し易い行動形態である。)」を加える。

8  同五八枚目裏三行目「ないと」の次に「判例を引用して」を加え、同行目「するが、」を「する。」に改め、その次の「これは、」から同八行目末尾「できない。」までを以下のとおり改める。

「しかし、前記のような注意義務は、事実上の冬季に二〇〇〇メートルを越える積雪の高山に登山するような場合には、いっそう強く要求される。けだし、他のスポーツ活動と比較し、生命そのものを危険にさらす可能性が高く、まして天候が悪化したような場合には、高度の危険性があるから、事故を避けるためには、その行動についてより慎重、正確な判断に基づく指導監督が求められるからである。もとより、バレーボールや球などにおいても、生命の危険がまったくないというわけではないが、指導監督する教員がリーダーの役割を果たし、最終的に行動を決定した本件合宿の場合とはむしろ異質のものというべきである(控訴人の引用する判例は、中学生が課外活動であるバレーボールの練習中に、練習の妨げになる行為をした部外の中学生を殴り失明させたという事例であり、本件とは事案を異にする。)。

また、控訴人の主張は、生徒の自主的な活動を教員が見守るに過ぎない、前記バレーボールのような例には当てはまるとしても、本件パーティーの場合はそれと異なり、山行としても小泉が実質上の引率者、実質的なリーダーであり、本件事故に至るまでの行動の決定について責任を負うべき立場にあったことは、前認定のとおりであるから、右主張を採用することはできない。

9  同五九枚目裏二行目「されているのは、」の次に「暴風雪の中を行動するのは不測の事態に遭遇する可能性、たとえば、」を、同三行目「十分ではなく、」の次に「風雪に方向を見失い、あるいは」をそれぞれ加える。

10  同六〇枚目表末行「第一一号証、」の次に、「成立に争いのない甲第一号証、」を、同六〇枚目裏末行末尾「できる。」の次に「のみならず、西駒山荘に停滞することは、危険であるからなにもしないということではなく、高専の山岳部として冬山での活動をも目標とする以上、悪天候下で山小屋に停滞すること自体、不可欠の訓練、経験の一つと評価することができ、また前記本件合宿の目的にかなったものともいえるのである。」をそれぞれ加える。

11  同六三枚目表七行目「第七」の次に「(原本の存在も争いがない。)」を加え、同裏末行「右のよう」から同六四枚目表一行目「によって、」までを「右①、②のような事由を、」に改め、同四行目「としても、」の次に「冬山での訓練を目指す」を加え、同五、六行目「予想され得るところであって、」を「予想され、学校当局、部員の家庭も予測しているところであって、」に改め、同八行目「みても、」の次に「二、三日下山するのが遅れて心配をかけたとしても、」を加え、同一〇行目「ところであるから、」を「ところである」に改め、その次に「(そもそも、生命の危険と対比すると、右のような事由は、二義的にしか比較衡量の対象とならないというべきである。)。してみると、」を、同六四枚目裏三行目「種々の危険」の次に「、とくに生命に関わるような危険」をそれぞれ加える。

12  同六五枚目表六、七行目「早朝から」の次に「木曽側から吹き下ろす」を加え、同裏四行目「第二六号証、」を削除し、同五行目「第二五号証の一、二、」の次に「第二六号証、」を加え、同六行目冒頭「六号証、乙第七、」を「七号証、」に改める。

13  同六七枚目表八行目「なかったこと、」の次に「③また、三ツ岩付近の積雪はクラストしていて固く、氷状であったが、本件事故現場は、右三ツ岩の下を本件パーティが通過して、ほんの二、三〇メートル行ったところであり、その程度の距離で雪質や積雪状況が大きく変化するとは思えないこと、」を加え、以下「③」から「⑤」までを「④」から「⑥」にそれぞれ番号を改め、同六八枚目表二、三行目「ほとんどなく」を「ほとんどなかったこと」に改め、その次に⑦として「⑦現に本件事故現場まで、本件パーティーが山腹をトラバースしたにも拘わらず、雪崩は発生していないこと、」を加える。

14  同六八枚目裏七行目「によって」の次に「、アイゼンの爪が」を加え、同八行目「であった」を「まで積雪が固まっていた」に改め、同六九枚目表四行目の次に改行して以下のとおり加える。

「もっとも、控訴人は、現に本件事故現場まで、山腹をラッセルしながらトラバースしても、雪崩は発生しなかった旨主張する。しかし、雪崩は発生の危険があっても、かならず発生するものとは限らないし、前認定のとおり、西駒山荘から森林限界まで下がる途中、二回クラックが目撃されていたのであり、このことは雪質の不安定さ、雪崩の前兆を示すものともいえるのであるから、雪崩が発生しなかったからといって、その危険がなかったとはいえない。」

15  同六九枚目裏一〇行目「判断し」の次に「、沢の上部、樹林が切れている辺りで、立ち止まって、地形を観察するとか、ザイルの使用等を考えることもなく、そのままラッセルを続け、一団となって進行し」を、同七〇枚目表七行目「としても」の次に「、前認定のとおり、本件パーティがトラバースしたのは三ツ岩の直下ではなく、かなり下方で右岩そのものからも相当の距離があり、また、樹林限界から沢の上部(沢のつめ)である本件事故現場までの間において、数一〇メートルも距離が離れると、積雪に顕著な違いがあっても、不思議ではなく、少なくともそれまでの樹林限界沿いの状況より、積雪の状態は、雪崩れを誘発する危険の有無という観点から見て、それ以上に危険性があったものと認められるから、」を、同八行目「ない。」の次に「また、仮に前記未確認の沢が、五〇〇メートルから六〇〇メートル下から始まっていたとしても、雪崩の発生する危険があったことには変わりはない。」をそれぞれ加える。

16  同七一枚目裏三行目「主張し、」を「主張する。」に改め、その次に「そして、」を加え、同一〇行目の次に改行して以下のとおり加える。

「また、当審において提出された乙第二三号証(新田隆三の意見書)には、本件の雪崩は、新雪ではなく、それ以前に降った雪が『しもざらめ雪』の層(弱層)を形成し、それが破断したために生じたと見るのが合理的である等の記載があり、さらに成立に争いのない(写真については被写体、撮影年月日に争いのない)乙第二六号証によると、昭和六三年一一月三〇日ではあるが、本件事故現場付近で、表面から約四〇センチメートルのところに、しもざらめ雪の層を観察したことが認められる。」

17  同七一枚目裏末行「証人新田は、これについても」を「右新田の証言や意見書も、」に改め、同七二枚目表五行目「なかったこと」の次に「、すなわち、控訴人の主張や前記小泉の証言を」を、同行目「証言し」の次に「、意見を記述し」を、同八行目末尾「できない。」の次に「また、前記乙第二六号証も、撮影の日時が、本件事故時から一〇年以上隔たりがあるうえ、一一月三〇日という時期も異なり、これをそのまま採用することはできない。」をそれぞれ加える。

18  同七二枚目表九行目「甲第四二号証」の次に「乙第二三号証、弁論の全趣旨により原本の存在」成立ともに認めることができる乙第二四、第二五号証」を加え、同裏三行目「分けられないこと、」の次に「右新田の証言、意見書によると、従前新雪表層雪崩と考えられていたもののうちに、右板状雪崩が含まれていた可能性があるが、しかし、固くクラストした古い雪の上に新雪が積もった場合、すなわち従前新雪表層雪崩の発生する危険があるとされてきた条件のもとにおいて、新雪そのものが滑って雪崩の発生する危険を否定するものではないこと、また、」を加え、同四行目「発生したと証言する」を「発生したと考えるのが合理的とする」に改め、同行目「板状雪崩」の次に「(特に弱い層である「しもざらめ雪」のそれが破断して生ずる。)」を、同五行目「一種で、」の次に「右の分類ほど詳細ではないが、」を、同九行目末尾「認められる。」の次に「さらに、当初表面から一〇センチメートル位の厚さの雪の層がずれたとする前記嶋ノ内の供述は、それ以前に積もった古い雪ではなく、むしろ新雪そのものがずれたことを裏付けているものと考えられる。」をそれぞれ加える。

19  同七三枚目表七行目「本件ルートを」の次に「とって、本件事故の当日、前記時刻に」を、同一〇行目「あるか否かは、」の次に「あるいは、板状雪崩の発生のメカニズムや、しもざらめ雪についての知、不知は、」をそれぞれ加える。

20  同七四枚目表五行目「わけではないが、」の次に「、一方で山岳部の指導者として当然のこととはいえ、文部省等の作成した登山活動についてのテキストにも目を通し、細部については別としても、おおよそそこに記載されている程度の雪崩についての知識は有していたのであって、言い換えると、」を、同裏末行「全く」を削除し、同七五枚目表五、六行目「進行させ、」の次に「また、未確認の沢筋の上部を通過するさいにも、格別配慮することなく、同様に進行させ、」を加え、同九行目「専門的知識」の次に「、まして弱層破断による雪崩(板状雪崩)やしもざらめ雪についての知識」を、同裏七行目「停滞せず、」の次に「雪崩による危険はないとして、」をそれぞれ加える。

21  同七七枚目裏一〇行目末尾「相当である。」の次に「後記七2に認定した清水の登山歴、小泉に次ぐその経験、本件事故現場まで終始先頭部にいて指導的役割を果たしていたこと等の事情を考慮しても、右判断を左右するものではない。」を加える。

22(一)  同八一枚目表一〇行目「四二五八万七九七八円」を「四二五八万〇七七八円」に、同八七枚目表(別紙「計算表」)一〇行目「0・9223」を「0・9523」に、同行目及び末行の各「221352円」を「228552円」に、同末行「42587978円」を「42580778円」にそれぞれ改める。

(二)  同八四枚目表六行目「五四一八万七九七八円」を「五四一八万〇七七八円」に、同七行目「二七〇九万三九八九円」を「二七〇九万〇三八九円」に、同末行から同裏一行目「五四一八万七九七八円」を「五四一八万〇七七八円」に、同八五枚目裏九行目「三二〇九万三九八九円」を「三二〇九万〇三八九円」に、同九、一〇行目「五九一八万七九七八円」を「五九一八万〇七七八円」にそれぞれ改める。

二  以上のとおりであって、原判決中、これと異なる被控訴人加藤録郎、同トシ子及び被控訴人角田源一についての部分を、主文一項のとおり変更し、その余の被控訴人らに対する原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法九六条、九五条、八九条、九二条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 鈴木經夫 浅野正樹)

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